
工場の心臓部とも言える産業用モーター。その安定稼働は、工場全体の生産性と安全性を左右する重要な要素です。しかし、モーターの振動や異音、部品の摩耗といったトラブルは、しばしば発生し、生産ラインの停止や多大な損失に繋がる可能性も孕んでいます。
これらのトラブルは、モーターの芯出し不良によって引き起こされることがあることをご存知でしょうか?
本記事では、工場の設備保全担当者に向けて、産業用モーターの芯出しに関する基礎知識から、精度向上のためのテクニック、さらには芯出し不良が引き起こす振動問題への対策まで、網羅的に解説します。
1. なぜ芯出しが重要なのか?
モーターの芯出しとは、モーターの回転軸と、駆動される機械(ポンプ、ファン、コンプレッサーなど)の回転軸を正確に一致させる作業のことです。この作業は、一見単純に見えますが、機械の寿命、効率、安全性に大きな影響を与えます。
芯出しが不適切な場合、回転軸にずれが生じ、以下のような深刻な問題を引き起こす可能性があります。
これらの問題を回避し、工場の安定稼働を守るためには、正確な芯出しが不可欠です。
過剰な振動と騒音
軸のずれは、回転中に異常な振動と騒音を発生させます。これは、ベアリングやカップリングなど、他の部品にも負担をかけ、摩耗や破損を早める原因となります。
ベアリングの早期劣化
軸のずれは、ベアリングに偏った負荷をかけ、寿命を著しく縮めます。結果として、頻繁なベアリング交換が必要となり、メンテナンスコストの増加に繋がります。
エネルギー効率の低下
軸のずれは、回転抵抗を増大させ、モーターのエネルギー効率を低下させます。これは、電気代の増加やCO2排出量の増加に繋がり、経済的にも環境的にも悪影響です。
予期せぬ設備のダウンタイム
芯出し不良による部品の破損は、予期せぬ設備のダウンタイムを引き起こし、生産計画に大きな支障をきたす可能性があります。
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2. 正確な芯出しを実現するために
芯出し作業は、正確な測定と調整が求められる精密作業です。ここでは、高精度な芯出しを実現するための手順を、5つのステップに分けて詳しく解説します。
ステップ1: 準備と初期確認
- 安全確保: 作業前に、必ず機器の電源を切り、感電や誤作動のリスクを排除します。また、作業スペースの安全も確認し、事故防止に努めましょう。
- 目視検査: モーターと駆動機械の設置状態、ボルトの締め付け状態、シャフトの目視確認を行い、異常がないかを確認します。錆や汚れ、損傷などは、芯出し精度に悪影響を与える可能性があります。
- 計測器の準備: 芯出しに使用する計測器(ダイヤルゲージ、レーザーアライメントツールなど)を用意し、動作確認とキャリブレーションを行います。

ステップ2: シャフトの粗調整
- 回転確認: モーターと駆動機械のシャフトを手で回転させ、引っ掛かりや抵抗がないかを確認します。スムーズに回転しない場合は、軸の曲がりや部品の干渉が考えられます。
- 初期位置調整: 目視でモーターの位置を調整し、両方のシャフトがほぼ一致する位置に設定します。この段階では、大まかな位置合わせで問題ありません。
ステップ3: 正確なアライメント測定
- 角度のずれ測定: ダイヤルゲージやレーザーアライメントツールを用いて、シャフト間の角度のずれを正確に測定します。角度のずれは、水平方向と垂直方向の2方向について測定する必要があります。
- オフセットのずれ測定: 同様に、シャフトの平行度を測定し、水平方向と垂直方向のオフセットのずれを正確に把握します。測定値は、記録しておき、後の調整作業に役立てます。
ステップ4: 微調整と再測定
- 測定結果に基づく調整: 測定結果に基づき、モーターの位置を微調整します。シムと呼ばれる薄い金属板をモーターの取り付け部に挿入することで、軸の位置を精密に調整できます。
- 再測定: 調整後、再度、角度のずれとオフセットのずれを測定し、許容範囲内にあることを確認します。必要であれば、さらなる微調整を行います。
ステップ5: 最終確認と試運転
- 最終測定: 全ての調整が完了したら、最終的な測定を行い、芯出しが正確に行われたことを確認します。
- 試運転: モーターに電源を入れ、低速回転から徐々に回転数を上げていきます。異常な振動や騒音、発熱がないか注意深く観察します。問題がなければ、芯出し作業は完了です。
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3. 芯出しに活躍する計測器:種類と選び方、使い方
芯出しの精度を左右する重要な要素の一つが、計測器の選択と使用方法です。ここでは、代表的な芯出し用計測器の特徴や選び方のポイントを解説します。
1. ダイヤルゲージ
- 特徴: 機械的な構造で、シャフトの変位を針の動きで表示します。比較的安価で、オフセットのずれ測定に適しています。
- 選び方のポイント: 測定範囲と精度が重要です。一般的に、0.01mm単位で測定できるものが多く使われています。磁石付きのベースがあると、設置が容易になります。
- 使い方: ダイヤルゲージをシャフトに固定し、シャフトを回転させながら針の動きを読み取ります。測定値の変化から、軸のずれを判断します。

2. レーザーアライメントツール
- 特徴: レーザービームを用いて、非接触で高精度な測定が可能です。角度のずれとオフセットのずれを同時に測定でき、リアルタイムに調整結果を確認できます。
- 選び方のポイント: 測定精度、測定範囲、使いやすさなどを考慮します。近年は、スマートフォンやタブレットで測定結果を確認できる製品も増えています。
- 使い方: レーザーユニットをモーターと駆動機械のシャフトに取り付け、レーザーを照射します。装置が自動的にずれを計測し、画面に表示します。

3. スキミゲージ
- 特徴: 薄い金属板を複数枚セットにしたもので、シャフト間の隙間を測定します。主に、粗調整の段階で、おおよその軸の位置合わせに用いられます。
- 選び方のポイント: 測定したい隙間の範囲に合った厚さのゲージを選びます。材質も重要で、ステンレス製は錆びにくく、耐久性に優れています。
- 使い方: シャフトとモーターの間にゲージを挿入し、隙間を測定します。適切な厚さのゲージがスムーズに入る位置を探します。

4. 水準器
- 特徴: 水平を測定するための機器です。シャフトの水平度を確認し、モーターや駆動機械の設置面の調整に役立ちます。
- 選び方のポイント: 測定精度と使いやすさが重要です。気泡管式のものは安価ですが、デジタル式のものは高精度で測定が容易です。
- 使い方: シャフトに水準器を設置し、気泡の位置を確認します。気泡が中心からずれている場合は、調整ネジで水平になるように調整します。

計測器を選ぶ上でのポイント
- 必要な精度: 許容されるずれ量は、機械の種類や運転条件によって異なります。要求される精度に応じて、適切な計測器を選択する必要があります。
- 作業効率: 測定時間や調整のしやすさも考慮しましょう。レーザーアライメントツールは、従来のダイヤルゲージに比べて、大幅な時間短縮が可能です。
- コスト: 予算に合わせて、最適な計測器を選びましょう。高価な計測器は高性能ですが、使用頻度が低い場合は、費用対効果を考慮する必要があります.
4. 芯出し精度を向上させるために
正確な芯出しは、経験と知識に基づいたテクニックによって、さらに高めることができます。ここでは、現場で役立つ実践的なコツを紹介します。
1. 計測器の事前キャリブレーション
計測器は、使用前に必ずキャリブレーションを行いましょう。定期的なキャリブレーションは、計測器の精度を維持し、誤差による芯出し不良を防ぐために重要です。
2. 温度変化の影響に注意
金属は温度変化によって膨張・収縮するため、芯出し作業は、できるだけ稼働時と同じ温度環境下で行うことが望ましいです。温度変化が大きい場合は、その影響を考慮して、調整を行う必要があります。

3. シャフトの清掃と点検
芯出し前に、シャフト表面の汚れ、錆、古いグリスなどを徹底的に除去します。また、シャフトの損傷がないか目視で確認し、必要であれば、研磨や交換を行います。
4. 適切なボルト締め付け
ボルトの締め付けトルクは、メーカーの指定値を守り、均等に締め付けることが重要です。トルクレンチを使用することで、適正なトルク管理ができます。
5. 複数回の測定と記録
同じ場所を複数回測定し、測定値にばらつきがないか確認します。測定値を記録しておくことで、調整作業の精度向上に役立ちます。
6. リアルタイム調整機能の活用
レーザーアライメントツールの中には、リアルタイムに調整結果を表示する機能を持つものがあります。この機能を活用することで、効率的に芯出し作業を進めることができます。
5. 芯出し作業で遭遇するトラブルシューティング
芯出し作業は、予期せぬトラブルが発生することもあります。ここでは、よくあるトラブルとその解決策を紹介します。
シャフトが規定の位置に戻らない
ボルトの締め付け不足、シャフトの歪み
ボルトの締め付けトルクを確認、シャフトの歪みを修正
測定値が安定しない
モーターの設置面の不均一、シャフトの曲がり
計測器の固定状態を確認、シャフトの回転を安定させる
調整しても目標値にならない
計測器の設置不良、シャフトの回転ムラ
設置面を研磨するかシムで調整、シャフトを交換
試運転時に振動が発生する
芯出し不良、他の部品の故障
芯出しを再確認、ベアリングなどの関連部品を点検
6. モーターの振動問題:芯出しとの関係と効果的な対策
モーターの振動は、芯出し不良だけでなく、様々な要因が考えられます。ここでは、振動問題の原因と効果的な対策方法を解説します。
芯出し不良以外に考えられる振動の原因
- アンバランス: 回転体の質量分布が不均一であるために発生します。バランス調整を行うことで改善できます。
- ベアリングの損傷: ベアリングの摩耗や破損は、振動や騒音の原因となります。定期的な交換が必要です。
- 共振: モーターの回転数と機械構造の固有振動数が一致すると、大きな振動が発生します。回転数を変える、機械構造を変更するなどの対策が必要です。
- 電気的な問題: モーターの巻線不良や電源の不安定さも振動の原因となります。専門業者による点検が必要です。

効果的な振動対策
- 振動測定と分析: 振動計を用いて振動の周波数や振幅を測定し、原因を特定します。
- 原因に応じた対策: 芯出し、バランス調整、部品交換など、原因に応じた適切な対策を実施します。
- 防振対策: 防振ゴムや防振台などの防振装置を使用し、振動の伝播を抑制します。
最後に
産業用モーターの芯出しは、工場全体の生産性、安全性、省エネルギーに大きく貢献する重要な作業です。釜石電機製作所では定期点検とメンテナンスによって、正確な芯出しと適切な振動対策を実施しています。モーターの寿命を延ばすために、お悩みのこと/気になることあれば、お気軽にお問合せください。
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